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『眼を覆い去るほど、耳を塞いでしまうほど、そして貴方の存在を消し去ってしまうほど、あたしは貴方を愛していました。』 「自分の物にならないなら殺してしまえば良い」なんて一体誰が言ったのだろう。 あたしはそんな事をぼんやり考えながらいつもの様にカーテンを開けて、眼を刺す目覚めには厳しい光を身体一杯に受けた。 いつもと何も変わらない朝。いつもと何も変わらないあたし。いつもと何も変わらない貴方。 「おはよう。今日も凄く良い天気よ。」貴方に話しかける。でも、返事は返ってこない。 「ああ、そっか。聞こえないよね。ごめん。」ただ微笑む貴方。 そっと、貴方にキスする。こんな様子も最近じゃいつもの風景。なにも変わらない風景。 静かに腰を上げて、台所へ向かう。ジーッと低く小さな鳴声を上げる冷蔵庫からミルクを取り出してタンブラーへ入れる。もちろん二つ。あたしと貴方の分。 卵は、今朝はサニィサイドアップで。トーストも焼けた。 朝食。あたしは、トーストにバターとマーマレードを塗って向かいに座る貴方を見上げた。 「ね、あたしの事愛してる?」静かに微笑む貴方を見てあたしは訊く。 「あたしはね、勿論貴方のこと愛してるよ。」微笑み返してあたしは言う。 そして、またいつもと何も変わらない朝食が終わる。 布団を干して一通り家事を済ませて、椅子に掛けて読みかけの文庫を開く。 「この本面白くないのよ。」と貴方に向かって言う。 「よくある話なのよ。女の人がね男の人を殺すの。愛してた人をね。殺した理由は女の人が男を愛したように男が女を愛さなかったからなの。男は他に好きな人が出来て分かれたいっていうのね。そしたら、女は『自分の物にならないなら殺してしまえば良い』って殺すのよ、男を。つまんないでしょ。アイデアも台詞もどっかで聞いたことがある様なのばっかり。」 くすくす笑いながら、あたしは貴方に話す。 「そういえば、『自分の物にならないなら殺してしまえば良い』なんて台詞誰が最初に言い出したのかしら。」今朝と同じ質問を問いながらまたぼんやり考え出す。 午後近くになった太陽の光が暑い位の気温を作り出し、閉め切った部屋は少し、熱気を帯びて蒸し暑くなった。 「もう、夏と同じね。まだ五月半ばなのに。」窓を少し開けて風を通すと気持ちよい風と共に、学校から帰宅する小学生の賑やかな声が聞こえてきた。 「今日、土曜日だったっけ。忘れてたわ。」気がついて時計を見上げる。12時少し過ぎたとこ。 「しかも、もうお昼じゃない。お昼の買い物行かないと。冷蔵庫に何も無いの。」 財布を手に取り、靴を履きだしたあたしは、ふと、思い出して貴方に話しかけるた。 「さっきの話ね、続きがあるの。女は後悔して、何で殺しちゃったのかって泣いて。それで終わり。よくある話。」微笑むだけの貴方。 「ひとつ言うとね、この話少し間違ってるの。本当に愛してたなら、後悔なんてしないのよ。あたしは後悔なんてしてないよ。貴方を殺して。」微笑むだけのあたし。 「だって、あたしは、貴方の眼を覆い去るほど、貴方の耳を塞いでしまうほど、そして貴方の存在を消し去ってしまうほど、貴方のことを愛しているんだもの。」 |