←前 次→

第7回中高生3000字小説バトル Entry12

冷たいゲーム





濁り切った、雨の降り出しそうな曇空。激しく荒れ狂う海。
ひび割れた岩が広がる崖、空中と地との丁度境目。靴の半分を前へ、靴の半分を後ろへ。
前進すれば間違いなく落下、後退すればいつもの下らない生活に戻るだけ。

これはゲームだ。

風が後方から吹けば俺は死ぬ。
風が前方から吹けば俺は生きる。




未練はない。生きようが、死のうが。
遊び暮らして家に戻らない親、陰険な目付きで陰口を叩く女子生徒、笑いながら俺の体操袋をごみ箱に捨てる元親友。出世しか頭に無くて、学力の低い生徒は目の敵にする教師。異端児を見下す優等生、蔑みの瞳。

下らない、下らない、下らない、下らない、下らない。

全ての優先順位は優等生。我が家という居場所を持つ女は美味しく新しい豆を食べる権利を持ち、残りの腐った豆を灰の中に落としてシンデレラに食べさせることが出来るのだ。シンデレラはそれでも逆転勝利したが、現実にそれは有り得ない。劣等生、異端児には、魔法をかけてくれる魔法使いは現れないのだから。




だから俺は、命を掛けるのだ。

俺の存在価値、そのものに。













『アンタってさ、煙草とか吸うワケ?』

首を振ると、琴乃は馬鹿にしたようにケラケラと笑って見せた。

『なーんだ。全然不良じゃないじゃん?私の方がよっぽどって感じ』

茶髪にピアス、ルーズソックスにショッキングピンクの口紅。
堅物の教師に反抗しているのかと尋ねたら、全然、と琴乃は言った。

『何もかも下らないっていうかぁ。面白くないのよね、毎日が。刺激が欲しいから、こんなカッコしてんの。もうちょっと楽しいセーカツ送れてたら、こんなことする必要もないのよね、きっと』

琴乃は俺みたいに、決して頭の悪い生徒ではなかった。
それなのに、そんな姿で毎日を過ごしていたのは何故なのか……。
それとも。
頭が悪くない、それ故に?

『アンタって、いつも死にそうな顔してるわよね。憑かれた中年のサラリーマンみたい。はは、我ながら適切な例えだわ』

琴乃は屈託がなかった。いつも笑顔だった。
寂しそうな顔など、して見せたことは一度も無かった。

『世の中ってタイクツよね。明るいニュースなんて辺り捜しても全然見当たんないし。外に出たらさ、外側ばっかり気にしてる人ばっかりで、人が皆虫みたいに思えてくんの。変な話だけど』

放課後、窓際。夕日に照らされた琴乃の横顔。

『アンタはさ、それでも生きていたいって思う?この世界で』


クラスで一人浮いていた自分、いや、疎まれていた自分に、周りの目も気にせず話し掛けてきた琴乃。
琴乃が何を考え、何を思い、何に動かされて行動してきたのか……結局、俺は知る事が出来なかった。






『――――――死んだ?』


知らせを聞いた時。
唇から零れた自分の言葉が、酷く間抜けに聞こえた事を覚えている。


車に跳ねられたと。
事故死だと、ニュースでは報道された。


真実が違うことを……俺は、予感した。











『―――ねえ、私さ、今日ゲームしようと思ってんの』
『ゲーム?』
『……そ。私の存在価値を掛けるの。カッコいーでしょ?』
『それって、どんなゲームなんだよ?』
『ヒ・ミ・ツに決まってるじゃない。……あ、そうそう。ゲームやる前に、アンタに言っときたいコトあったんだ』
『何?』
『………やっぱ言うの止めとくわ』










突風が吹き荒れた。

景色が回転した、ように見えた。

頭に浮かび上がったのは、琴乃と初めて出遭った時のこと、琴乃とクラスが同じになった時のこと、琴乃が話し掛けてきた事、琴乃が嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた事、……琴乃の声。



『アンタはさ、それでも生きていたいって思う?この世界で』




バランスを崩して、俺は倒れた―――――――――――――――――――――――後方へと。












「…………」


無言のまま、起き上がる。
岩に腰を打ち付けた時すりむいたらしい、肘から血が滲んでいた。





―――血が、流れている。
それは、生きているということ。





俺は死ななかったよ。



………琴乃。







お前が俺に言いたかったことって、一体何だったんだ?















日常に帰り、そして又辛い目にあって。
苦しくなる度、琴乃の顔を思い出す度に、
俺はゲームを始めるだろう。



自分の存在価値を確かめる為に。





命を掛けてまで、琴乃がそうしたように。

←前 次→

QBOOKS