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第8回中高生3000字小説バトル Entry3

めぐる季節を越えて

僕はずっと、ここで一人だった…。狭くて、透明な壁で外には出られない場所。僕の住処。下はふかふかした、木のようなものを細かくしたもので埋め尽くされている。それを掘り返すと、やっぱり透明な壁。上には、青い空の代わりに、平らな木と、白く光る丸いものが浮かんでいる。この中にあるのは、水が出てくる、銀色の細長いもの。それに、その中でいくら走っても、ぜんぜん進まない場所。そこがこの中で唯一、思いっきりは走れる場所だ。

透明な壁の向こうに見えるもの。“ご主人様”の部屋。見たこともない、へんてこなものばかりおいてある。ご主人様は、毛の生えていない動物。人間。人間は、僕たち動物をいじめる。隔離して、自由を奪って…。でも、ご主人様は大好き。ご主人様の部屋がオレンジ色に染まるころ、ご主人様は僕の住処に、硬い、野菜の味がする食べ物を入れてくれる。何日かに一度は、僕の大好きな向日葵の種も入れてくれる。だから、ご主人様は大好き。

それでも、ご主人様はいつもそばにいてくれるわけじゃない。朝になると、黒い箱を背負って、どこかに出かけてしまう。帰ってくるのは、お昼を過ぎるころ。寂しい。この狭い住処の中で、何もすることがなく、ただ時間を消費している。なんのために、僕はここにいるのだろう?

でも、ここでいくつかの季節を過ごしたとき、ある日突然、僕の住処に新しい仲間が加わった。僕と同じ動物。女の子。僕より一回り大きい。最初ぎこちなかった僕たちも、すぐに仲良しになった。ご主人様は、その女の子を、“スズ”と呼んでいた。それが彼女の名前だと、すぐにわかった。それから、ご主人様は僕のことを“シロ”と呼ぶ。だから、それが僕の名前。

スズが来てから、毎日が楽しくなった。孤独じゃなくなった。暖かい春には、おっかけっこをして遊んだ。一人ではできなかった遊びだ。暑い夏には、2人でぐだ〜ってしていた。僕たちは、夏は嫌いだ。

食欲の秋、今日も向日葵の種はおいしい。太りすぎないよう、気をつけなきゃ。

寒い冬、スズと体を寄せ合う。2人だと、とても暖かい。

こうして、スズといくつかの季節を過ごしたある日、スズに異変が起こった。おなかが大きくなって、ちょっと機嫌が悪い。スズは身篭ったのだ。うれしかった。これでまたここは楽しくなる。僕と、スズと、子供達。ずっとずっと、一緒。楽しみだ。早くみたいな、僕たちの子供。

やがて、スズはたくさんの赤ちゃんを産んだ。毛生えていないけど、僕たちにそっくり。ご主人様も、名前を付けるのに苦労するだろうな。子供たちもすぐに毛が生えて、大きくなった。住処はずいぶんと狭くなったけど、その分前よりもずっと、賑やかになった。温もりと安らぎがあって、とても楽しい毎日。でも、子供たちが生まれてまもなく、ご主人様は子供たちを住処から取り出した。ご主人様は、たまに僕やスズを住処から出しては、撫でたり、顔を近づけて眺めたりする。だから、子供たちもなでなでされているのかと思った。でも、いくら経っても、子供たちは住処に戻ってこなかった…。

僕とスズは泣いた。なんで僕たちの子供を連れていっちゃうの?返して、返してよ。泣いて泣いて、泣きつかれて、ようやく、僕は子供たちが二度と帰ってこないことを知った。そして、何で僕に親がいないのか、わかった気がした…。

僕たちは、また2人きりになってしまった。でも、前よりもずっと寂しい。スズは子供たちがいなくなってしまったショックで、攻撃的になってしまった。僕も、スズに引っ掻かれてしまった。ごめんね、スズ。僕には何もできなくて…。非力な自分が、くやしかった。

2人きりの季節は巡り、またしてもスズは身篭った。僕たちは心から喜んだ。今度こそ、幸せになれる。今度こそ、みんなで楽しく暮らしていける。今度こそ…。僕は無事に子供たちが生まれることを祈った。たとえ僕がどうなっても、スズと、子供たちは幸せであってほしい。それが、僕の生まれてきた意味だから…。だから…。

ご主人様の部屋に、たくさんの人間がやってきた。背中には黒い箱。たぶん、ご主人様の友達。ご主人様と友達は、楽しくおしゃべりをしていた。ふと、ご主人様が立ち上がって、部屋を出て行った。ご主人様は“トイレ”といっていた。どういう意味だろう?

ご主人様がいなくなっている間、ご主人様の友達の注意は、僕たちに向けられた。一人の人間が、住処に手を伸ばし、スズを掴もうとしていた。スズは気が立っていた。おなかの赤ちゃんを守るため、スズはその手に噛み付いた。人間は、びっくりして手を引いた。でも、すぐに怒って、スズを摘み上げた。やめて…やめてよ!僕はスズが連れて行かれないよう、スズにしがみついた。でも、僕は本当に無力で、ちっぽけで…。だから、大好きな人を守れなかった。

それから、スズに何があったのかはわからない。ご主人様が部屋に入ってきて、すぐに怒り出して、友達は慌てて部屋を出て行った。
友達が去ったあと、ご主人様は泣いていた。ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。手のひらに、動かなくなったスズを乗せて…。ご主人様が泣いていた。だから、僕にもわかった。スズがもう、ここには帰ってこないことを…。

どうして?僕たちが何をしたの?ただスズは、大切な赤ちゃん達を守っただけなのに。どうしてスズを…。どうして僕の愛する人を奪うの?返して…お願い。スズを…愛する人を…。僕はどうなってもいい。だから…せめて、スズだけは…。

僕はスズの名を叫びつづけた。とめどなく涙があふれた。のどが裂けそうになっても、僕は叫んだ。それでも、僕の声はこの狭い空間に呑まれ、誰の耳に入ることもなく消えていった。

僕は、とうとう独りぼっちになってしまった。何もかもを、失った。そして、一人きりの季節が流れた。何もすることがなく、無常に時が流れて、そして…。

僕には死期が近づいていた。ボロボロになった体を引きずって、僕は天を仰いだ。そこに見えるのは、やっぱり平らな木。

まぶたが重くなってきた。意識が朦朧とする。体が動かない。とうとう、僕の体は倒れてしまった。もう、1歩も動くことができない。いろんな思い出が、頭の中を駆け巡る。ご主人様…大好きだった向日葵の種…すぐに連れて行かれてしまった、大切な子供達…僕にとって、かけがえのない存在…愛する人…スズ。

僕は、何のために生まれてきたのだろう…?この狭い空間で、すべてを失って…。何も残すことができずに…。僕は、まぶたを閉じた。もう、ここにいても仕方がない。僕はもう、疲れてしまった…。

もう一度だけ、まぶたを開けた。そこに見える、懐かしい影。スズ…。スズ、お迎えにきてくれたんだね?涙で目が霞んだ。苦しいからじゃない、うれしいからだ。僕は、知っていた。次にまぶたを閉じるとき、そこに広がる世界。どこまでも続く大地、青い空。向日葵畑を、僕と、スズと、子供たちが駆け抜ける。さえぎるものは何もなく、自由に、のんびりと。大切な存在に囲まれて、ずっと幸せに。

愛しているよ、スズ。だから、もう離さない。ずっと、ずっと、一緒だよ。ずぅっと…。

目の前のスズは、相変わらず暖かい笑顔で僕を見守ってくれていた。それじゃあ、そろそろいこうか、スズ。僕は、ゆっくりと、まぶたを閉じた…。

……。

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