第8回中高生3000字小説バトル Entry8
「たりぃ……」
あたしが一日の感想を言うとこれしかない。
しかもそれがずーっと続いている。
馬鹿馬鹿しい毎日。
生きているのが面倒な世の中。
嘘ばっかりの他人の天使のような悪魔の笑顔。
…どうでもいい人生。
朝起きると、特にあたしに愛情も抱いていないハハオヤに
酒臭い息をかけられながら『あんたの顔を見てると腹が立つ』と言われ、
仕方がないので《学校》という場所に行く。
このままあたしに何も関わらず無事に《学校》につけると思ったらそうでもなかったりする。
行く途中電車に乗るわけだが、なんにも害を与えてない奴らにやたらと軽蔑の目で見られる。
聞こえていると気付いているのかいないのか、まぁあたしには大して関係ないことなのだけれど
奴らが話しているのは「最近の若いヤツは」なんたらかんたら。
後は適当にこの世の中に反抗的だととられる行動全てを
《最近の若いヤツ》に当てはめて言っている。
そんなこと言っている自分たちのほうが変だということに奴らは気付きはしないだろう、
これからさきもずっと。
あたしは…あたしはきっと存在自体が世の中に反抗してるんだろう…。
なんとなく、そう思った。
駅から降りてこれでやっと《学校》に…と思ったが
今日は特にツイていないらしい。
あたしはいつも人の中にいるのが嫌で暗くて細い道を通っていた。
そんな時、たまにそれこそ世の中全てを嫌っている目をしてあたしに声をかけてくる奴がいる。
こんな暗いところに好きでたむろっている奴らの中にロクな奴はいない。
「おい、金よこせ」
と、こんなふうに。
あたしはいつもいつも聞き慣れたセリフに飽き飽きしながら答える。
「ないよ」
これは半分ホントだ。
別に遊ぶ為に外に出歩いているワケじゃない。
あくまで《学校》に行く為にあたしは家を出たんだ。
ところがもちろん奴らは怒るわけで。
鋭く光った…いや、すでに誰かの血がついて使われた跡が見られるから
鈍く光ったナイフを手に握り、あたしの首筋につきつける。
「死にてぇのか」
あたしは思う。
…死にたいのはお前だろ。
だからあたしはいつもそいつの願い通りにしてやる。
願ってる通りにしてやってんだから…別に罪悪感はない。
あたしは異常者じゃないからそんなことに喜びや快感を感じたりもしない。
ただ…そう、ただそいつの願いをかなえてあげてるだけだ。
肉親もいない奴らが、この広い広い、目が回りそうなほどに広く、
忙しく他人に無関心な人々が行き交っている世の中から一人消えたくらいじゃ世界は何も変わらない。
明日も今日や今までとなんら変わらないリズムで
セカイハ、マワルダロウ。
拭き取るのも面倒なので頬に少量の血をつけたまま《学校》に辿り着く。
そりゃあクラスメイト達は驚く。
そして先生と呼ばれる偉そうな人種に「どうした?」と聞かれる。
あたしは「ナイフを突き付けられたんです」と答える。
別に間違っているところは何もない。
…それ以上先生は詮索しなかった。
ムナクソワルイ。
授業が始まる。
面白くもつまらなくもない。
ただなんとなく聞いているだけ。
ただ時間だけが過ぎ去って…。
確かにただごとじゃなく無駄な時間だと思う奴らもいるだろう。
けどあたしにとっては一番幸せな時間だった。
椅子に座っていれば誰にも干渉されない。
窓から吹いてくる風を感じていればいい。
そう、風。
いっそ風になれたら。
なびくだけ。吹くだけ。流れるだけ。
人に存在を感じてもらえるのはホントに少しで、
でも確かに存在していて。
いいかもしれない。
風。
生きることに大して魅力も感じていないあたしにはピッタリかもしれない。
休み時間というやつ。
この世でもしかしたら一番あたしが嫌いな時間。
騒がしい。うるさい。耳障り。
聞こえてくる。
耳を塞いでいるのに雑音に混じってはっきりと。
あたしへの悪口。
あたしが「普通じゃない」って。
ああ、なんか電車の奴らと一緒だ。
こいつらも自分の異常さに気付いていない。
人の悪口を喜びとして、それで自分のストレスを発散し、
それなのにニコニコ笑いながら嘘ばっかり並べて《人並み》の時間を過ごす。
団体行動をとてもとても苦手としながら、それはそれは愛している方々。
その矛盾さに気付いていない。
「私達はこれからもずっと友達だよね」
その裏に隠されたいろいろな感情。
不安、脅迫、孤独感、不信感、安心感…なんだかあたしには理解できない感情達。
綺麗な顔でそんなこと言われたって…怖いだけだ。
そんな感じで午後の授業も終わり、
あたしの幸せな時間は終わった。
あとは家に帰るだけ。
多分。帰りに何もなければ。
「あ、ねぇ! 同じクラスの…そうだよねぇ?」
あともう少しで家に着くというところで誰かに声をかけられた。
そいつはなんの遠慮もなくあたしの顔を覗き込んでくる。
いわゆる優等生という顔をしていた。
しかもみんなに光を分け与える素直な笑顔を浮かべることの出来る人間。
ああ…委員長か。
あたしとは対極にいる人間だ。
「ね、私、ここらへんに住んでるの。あなたも?」
あたしは頷く。
分からない。
あたしなんかに話しかけてなんにも得することなんてないのに。
「一緒に帰ろ」
…邪魔だ。
「あのさ、悪いけどあたし一人が好きなの。
だから…ごめん」
あたしがそう言って彼女を振り切ると
視界の端に彼女の顔が見えた。
とても残念そうで、こんな私に断られたからってなにが悲しいのか理解できないけれど、
あたしはなんだか嬉しいような腹立つような…複雑な気持ちになった。
胸が苦しかった。
「そっか。ごめんね」
彼女は顔を上げると笑ってあたしの前から去っていった。
アア…人を悲しませるって、なんて…なんて寂しいことなんだろう。
素直な感情をぶつけられて、あたしは数分その場に立ち尽くした。
「ただいま」
あたしは家の扉を開ける。
そこにはもちろん誰もいない。
返ってくる返事があるわけもない。
ハハオヤは…多分仕事に行っている。
あたしは考える。
どうして世の中はこんなにも矛盾だらけなのか。
幸せな家庭と家庭とは呼べない家庭。
光の中にいる人間と闇の中にいる人間。
殺すと叫ぶ人間と死にたいと呟く人間。
表と裏。
…あたしには分からない。
なんだか世の中ってムズカシイ。
部屋には窓からただ夕陽が差し込むだけだった。