第10回3000字小説バトル結果
第9回3000字バトルチャンピオンは、
『貨道』羽那沖権八さん作に決定しました。
羽那沖権八さん、おめでとうございます。
票を得た方もそうでなかった方も、次回でまた頑張ってくださいね。
感想票をお寄せいただいた読者の皆様ありがとうございました。
- 貨道(羽那沖権八)
- 読んだ後、心が温かくなるような作品でした。
とても印象に残りました。次の作品も読んで見たいです。
- 私のベスト・スリーは他に太郎丸さんの『代償』、一之江さんの『ウミウシ』だった。
『貨道』という着想がまずいかにもありそうで面白い。便利になればなったで人は情緒を求めてレトロに回帰したりするものだ。さらになんでもかんでも「道」にしてしまう日本文化の特質をよく突いている。……「小説道」なんてのもあったりしてね。
- 不思議な感じ。優しいような厳しいような、甘い感もあるけど。
選んだ理由は、それかな。ぴぴんっと波長が合ったというか。
- 今回の作品の中では、「貨道」が良かったと思い、これを推薦します。
作品中の主人公の気持ちが素直に表現出来ていて、読んでいて内容にすんなり入り込めました。それと、22世紀になっても物価があまり現在と変わらないところは、逆にリアルさがあり、今のデフレ状態がかなり落ち込み、尚且つその状態からの立ち上がりがまた更に長引いた様子は読んでいる自分を「そうかもしれない」などと思いめぐらせるところがありました。
その他の作品で良かったものは「健太のプライドキッチン」「夜行列車」が良かったと思います。いい作風だなと思ったのは、「missing link」「ウミウシ」「帰り道」です。
- 夜行列車(伊勢 湊)
- 色々な作品があり、迷ってしまいましたが、印象の強さで選ばせて頂きました。
- 基本的にこういうストーリーが好きだから、かもしれませんが。
一番、素直に読めた、というのがまず第一条件です。他の作品はすこし疑問が残ったのが多かったので。
文章の構成も、顛末も違和感なく進んでいく。それにメッセージもある。
その情景がイメージできる。
良かったと思います。
あと、惜しいなぁ、と思ったのは、
『貨道』と『代償』でしょうか。貨道のほうは、おもしろいアイデアだなぁと思ったのですが、実貨を利用することに対しての、異常なまでの反発に違和感がありました。もっとそのバックグランドを明確にすれば、すごくいいと思います。
代償は、ある意味すごいと思うんですが、登場人物をもっと整理してかき分ける必要があると思います。きっと初めて読んだ人は混乱するでしょう。でも、パワーありますね(笑)。
- せつないなあ。夜2時の列車には悲しい思い出ありって。
文章力、ネタ、余韻、それぞれに楽しませていただきました。
- 月の花(翠葉)
- 今回の24作品がもし本屋に並んでいたら、迷わず、翠葉さんの「月の花」を買うと思います。
読みやすく分かりやすいストーリーですが、もっと深い内容を描いているようにも思えます。本屋で出逢って一気に全部立ち読みし、もっと読みたくて買って帰りたくなるタイプの作品です。
他に買うとすれば、2冊まとめて、小吉さんの「逃げる男」と一之江さんの「ウミウシ」を買います。
2作品とも雰囲気が心地良かったです。作者の方には失礼ですが、家で床にゴロンと寝転んでくつろいで読みたい感じがします。
4番目には、逢澤透明さんの「肉体の輝き」を買います。作品に登場する秋津美紗子という作家に惹かれました。もし売っていれば秋津さんの「日暮生活」も一緒に買うと思います。作品の世界にどっぷりハマって、通勤電車の中でも手放せない一冊になりそうな作品ですね。
5番目には、『こういう小説もあるんだ』と後学のために、小林祐悟さんの「{[ (^-)(-^) ]}(フタリノセカイ・・・刹那的恋愛)」を買うと思います。将来こういうパーソナルな内容の小説が流行るかもしれないですね。先行投資で第1刷を買っておきたいところです。(…ってことは将来売りさばくつもりってことですよね。小林さんごめんなさい。)
これ以上はおこづかいが足りないので買えません。
- 逃げる男(小吉)
- 人生に逃げられる事なんてそうそうない――まさか。
多分、彼はまたどこかで逃げ回っていて、その逃亡を続けたいが故に生き続けているのでしょう。執着のない人生の何と軽やかな事か。
続編を書こうとしても、するりと逃げられるかも。
- 健太のプライドキッチン(有馬次郎)
- 正直に言って作品の完成度とか、いかに洗練されているかで考えるとこの作品は苦しいものがありますが、加点法で考えたときに心を揺さぶる力があったと思います。プロの小説家の書いたものには人の心を揺さぶる力があり、そのうえで洗練された完成度も持っている気がします。
なのでへたに完成されて、蓋をされてしまったものよりも、伝わってくる感情の強いこの作品に資質と魅力を感じました。
- ここが感情のキレどころ(おかず)
- 字数的に、3000字にはほど遠く、以前の規約からいえば反則の作品であることはわかっていて、あえてこの作品に一票。
他の規約を守っている作品は、この作品に字数違反というペナルティを与えても勝てなかったということです。
作品自体は、違和感なく読ませる文章と展開、次々と繰り出されるアイデアで最後まで飽きずに読めました。内容はともかく、読ませるという一点で他を凌駕していると思いました。
- 恋が溶けていく(谷本みゆき)
- 冒頭から続く文章が「クサイ」と思ったのでやや期待がもてないと思いながら読み進めたのですが、これが登場人物の女性の話ということであると、一気にリアリティが感じられました。いかにも、です。この計算はちょっと感動しました。もっとも「読むのヤメ」と、読者を失ってしまう可能性もあると思いますが。
とにかく読み進めようという気にさせる文章です。どこかで読んだことのあるような文体にも思えますが、知性が感じられます。さり気ない知性の感じられる文章は読む者に心地よさをあたえると思います。
内容については、愛のあるなし、という境界線を引くことを拒む、ということを切実に訴える何かを感じました。恋とは何なのか。それは誰かが定義づけすべきものなのか。恋もしくは愛をともなわないセックスは醜いものなのか。セックスをするという関係に、ただそれだけの関係にでも何らかの意味を見い出すこともできるのではないか。逆に、だからこそそこにわずかでも愛があったという見方だってできるのではないか。そんな物語に思えました。
方向性を個人的に支持したく思います。明確に几帳面に、自分のなかで見えた物語をあるがままに写し取ろうとされた作品だと思います。筆力を感じました。
- 代償(太郎丸)
- 前半部分の人間関係は入りくんでいてわかりづらかったが、後半にたたみかけるような「代償」というか悲劇(喜劇)は映像として捉えるとおもしろい。
- 微熱の風(さとう啓介)
- 今回3000字の中で私の印象に残った作品の寸評を少し述べたいと思います。推薦作品は次の4作品です。
「微熱の風」(さとう啓介さん) この作品で感じるものは、まず第一に清清しさと作品自体の持つ微熱のような捕らえ所のない青春の情熱です。ストーリーとこの作品だけでは終れない余韻、もっと続くであろう予期せぬ展開など、バイク好きにはもちろんのこと、それ以外の人をも柔らかく引き込む魅力で溢れています。露骨な美観的表現を避ける作者の持ち味が出ています。是非続きを読んで見たくなる作品です。動と静がうまく調和しています。広々とした空間を照れながら内気にそして見事に表現している。
「夜行列車」 (伊勢湊 さん) この作者の作品は1000字も素敵な物が多くて私も個人的なファンです。前回の3000字「アルパカ行進曲」もとても良かった。今回はせつない少年期のトラウマがさりげなく感じられ、初恋にも似たほろ苦さとやるせなさ、少年期への無限の憧憬などなどが感じられます。この作風、この文体はこの作者ならではのもので完成されています。静かに哀しい程切なくなります。ノスタルジー的描写の勝利です。この作者にはある種の憧れみたいなものを感じています。
「代償」 (太郎丸さん)
タイトルから見ても、途中で行き着く展開は読めてくるのですが、期待を裏切る非現実性と現実 性のギャップがとてもおもしろいです。この作者の色気を含んだこのパターンを私は初めて読んだのですが、シリアスでもコメディーでもない点で、うまく読ませる作品だと思います。 ニンマリしたくなります。読後に。
「ウミウシ」 (一之江さん)
この作者の作品は基本がしっかりしていると思います。この方の作品はストーリー重視で読ませて唸らせる作品が多い様に思います。そして雰囲気をとても大切にしているのを感じます。ただ今度の作品はなんとも不思議な世界 が現出しています。ある男と主人公と海とウミウシとヨーグルトとローレライ、暗号の様な不思議な不条理をも感じつつ、つい読み込んでしまう魅力とうまさがあります。
性格の違う4作品で、どれも好きなのですが今回はストーリーのつづきを読みたくなる「微熱の風」を推薦します。照れのない男はつまらない。なにかの雑誌に書いてました、参考までに。